こんにちは。森下です。
さて、今回は「キレる上司 パート2」についてお話しします。
笑うと福がくる
「笑う門には福きたる」という言葉がある。
子供の頃は、なんとなくウソ臭いなと思ったものである。
家族の食卓では、「ただ、笑うだけで幸せになれるなら世話ないわ。
人生そんな甘くない」と親が失笑していたのを覚えている。
しかし、後になってから、違うぞと思いはじめた。
この言葉は本当だと。
福が来たから笑うだけでなく、笑っていると福はくるものだと科学的に気づいたからである。
この単純な言葉が、いまだからこそ思い出した方がいいなと考えたので、ここからの話題にしたい。
この言葉に至るには、心理学的なニュアンスがある。
現在の心理学は脳科学が進み、科学的に説明されることが多くなって、さらに理解しやすくなっているが、それまでは想像で説明しなければならなかった。
たとえば、フロイトがいった深層心理は「隠れた性の衝動がその人の行動を変える」といったことであり、ユングの集合的無意識論では「無意識は人類が共通した世界である」というのも科学的な説明が十分だったわけではない。
しかし、今でも受け継がれているのは事実である。
こうした心理学の考えから、人は感情によって行動していると理解された。
たとえば、「不安だから汗が出る」「幸せだから笑う」「悲しいから泣く」といったように。
その後、アメリカの哲学者ウイリアム・ジェームズがいまから100年以上昔に異論を唱えることになる。
彼は、それは逆ではないかといったのである。
「汗が出るから不安になる」「笑うから幸せである」といったふうに。
それまで言われていた原因と結果は逆じゃないかと主張したのである。
アズイフの法則
これは「As if(アズイフ)の法則」といわれ因果をひっくり返した。
そうなると「幸せそうに振る舞うことで幸せになるのであって、幸せに振る舞えない人は幸せになれない」となる。
この考えが多くのアメリカチックな成功法則に影響を与えた。
お金持ちになりたければ「高級ホテルのスイートに泊まれ」「飛行機での移動はファーストクラスで」「ブランドを着こなし高級ワインを」など、まず、お金持ちを振る舞い、気分を味わうことがスタートだと言われた人も少なくないだろう。
あのダーウィンでさえ、進化論のなかで表情について取り上げている。
表情があってコミュニケーションが生まれているといった感じであろうか。
また、表情は万国共通である。
文明社会に接していない奥地の民族も笑いは同じである。
どんなに言葉が通じない人とでも、笑顔によって気持ちがラクになり、親しみが湧いてくる。
逆に、どの国の人も、不思議に作り笑いを見抜く能力も共通しているという。
こうしたアズイフの説明は、いまでは、脳の計測ができるようになって、その正当性が説明できるようになったようだ。
心理学の段階では、夢占い、おとぎ話だったが、認知心理学などは脳の中での反応が見えるようになった。
たとえば、ポルノ写真を見ると脳の「この部分が反応する」と目で見えるようになったからである。
他の実験では、まさに「表情が感情をつくる」ことが科学的に説明できそうになったという。
言葉が感情を作る
また、こういう実験もある。
何人か集めて「ビタミン剤の効果実験」をするといって、「体に注射して、視覚的に体にあらわれるかどうか確かめたい」といって何人かを集めた。
しかし、実際には参加者にはアドレナリンを打ち、同室に同じ注射を受けた人を集めた。
するとどうなったか?
人はアドレナリンを打つと心拍数があがる。
体温も若干あがる。
カッカするのだ。
体が変化してくると「なんか、楽しいですよね。ワクワクしませんか?」と一人が言いだし、同室の人々は「だんだん楽しくなってきた」と口々で言いだした。
体の変化から楽しさを感じたというのだ。
一方、今度はその部屋で、マイナスな話をさせた。
一人が「あの医者、腹が立つ」といって、同室の人へ同意を得ることをはじめたのだ。
このやりとりを続けていると、この人々は視覚では、なにも変わらないのだが、心情的には「気分が悪い」と言い出した。
中には、「もう二度といやだ」とかなりの不快に思った人もいたという。
これこそが言葉が感情をつくった例なのだ。
体の変化から楽しいという変化がうまれ、マイナスな言葉から不快な感情が作られた。
感情からではなく、行動から感情がうまれたという実験である。
鼓動で脳は誤解する
また、こういった実験もある。
摂氏38度まで上げた部屋で、ある二人をおく。
徐々に攻撃が始まるという。
その後、両者は徹底的に攻撃をくり返すという。
頃合いをみて、冷たい水を与えて22度までゆっくり室温を下げると、攻撃をやめて仲良くしようと変わるのだという。
不愉快な温度であれば攻撃能力があがり、下がると攻撃は下がる。
感情は温度によって変わると言うのである。
これもアズイフの法則である。
これは科学的には、暑くなると心臓の鼓動が早くなる。
攻撃しなさいという状況になっていく。
室温によって上げられた鼓動を、脳が怒りと勘違いしてしまうのである。
逆に、部屋の温度がさがると心拍数が下がるので、もう、怒りとは結びつけなくなる。
はじめてのデートをジェットコースターにする理由も、ドキドキするのが「恋ときめき」と勘違いさせるのと同じである。
行動によって感情が生まれる例である。
科学的にいうとこうだ。
普通は「脳から電流が走り、行動につなぐ」のだが、さきに電流がはしったのを感情として脳が後付けするのだ。
「うれしいから電流が走った」のでなく、「電流が走ったからうれしい」と脳が判断する。
こういった単純な間違いを脳は行う。
心理学としては、感情と行動は、どちらが先なのかという議論は、科学的には、簡単な説明で終わってしまうのである。
報酬はやる気と無関係
ここで報酬について考えてみる。
行動から感情に繋がるのが分かったが、報酬から行動や感情に繋がるのか?
報酬はやる気に繋がるのか?
答えは、報酬はやる気につながらない。
こういった例がある。
アメリカの美術大学で報酬を払って学生に絵を描いてもらった。
芸術性の高いものをと依頼をして。
その時に、先にお金を払って描いてもらうのと、「いいものができたらお金を払う」というとどちらの絵がいいものになるか。
結果として、圧倒的に後払いの方がレベルの高いものができたという。
先に、お金をちらつかせると質が落ちるのである。
また、こういう例もある。
アメリカで、不良少年がある老人に、毎日いたずらをしていた。
その事に手を焼いた老人は、この理屈で対策を立てた。
まず、老人は、その少年に5ドル渡して、「毎日5ドル払うから、そのいたずらを毎日続けてくれ」といった。
その後、毎日、同じ時間を指定して、いたずらをしてもらったようだ。
そして、10日後に「やはり、毎日5ドルはきついので、1ドルにしてくれないか?」といったそうだ。
すると、少年は「そんな安い金でできるか」といって、その日からピタリとやめそうだ。
これも、人間の心理である。
行動と感情の関係をよく理解しておきたい。
森下吉伸
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